「クラフトマンシップ」
連載コラム『日本工芸の歩む道』後編「現代社会と工芸」 VOL.2
展覧会情報やインタビューなど、工芸に関するさまざま情報を発信しています。
愛知県常滑市。伊勢湾を眼前に望むこの地は、焼き物の一大産地として栄えてきた。中世には日本の六古窯最大規模の産地として、大型の壺や甕が大量に生産され、海路で日本各地へ運ばれた。江戸時代後期になると、今日の常滑の顔ともなっている朱泥の急須が誕生。明治期には近代化の波のなかで、産業用の土管やタイルが盛んに作られた。今でも数多く残されている中世の窯跡や明治期の土管群は、この地ならではの風景を形作っている。そんな焼き物の町で、戦後間もない時期に甚秋陶苑は創業された。ものが無い時代、ろくろ職人であった初代の伊藤実さんは、様々な種類の焼き物を手がけていたが、2代目の成二さんの代になり、常滑を代表する焼き物である急須の制作・販売にシフトしていった。以来、現在に至るまで、美しく機能的な急須を生み出し続けている。
常滑で採れる土は驚くほど滑らかで、地名の由来になっているとも言われている。甚秋陶苑では、この地で採れる朱泥のほか、白泥と黒泥の主に三種類の土をベースにして、焼き方などを工夫しながら制作している。中でも特徴的なのは、素焼きした生地に藻を巻き付けて本焼きする「藻掛け」や、近隣の海苔養殖の副産物である牡蠣殻をふりかけることで表現される細かい斑らのような模様に、化粧土と釉薬の中間のような性質を持つ、チャラという素材を使った、独特のマットな質感と色の表情など。常滑ならではの素材や技法を駆使しつつ、使い勝手とデザイン性を追求するのが、甚秋陶苑の急須作りである。
現在の甚秋陶苑を代表する商品の一つが、極端に背が低く平らな「極平型急須」だ。常滑のきめ細やかな土は日本茶を美味しくさせるというが、茶葉がふわりと均一に広がる形にすることで、香りや旨みまで存分に引き出せる急須に仕上がった。この急須は、2012年に全国の陶芸家を対象とした「長三賞常滑陶芸展」にて、第41回長三賞を受賞している。茶漉しの取り付けや、お湯が漏れない蓋を作る技術は並大抵のものではないが、それだけの価値ある商品として、現在も多くのファンを唸らせている。