「クラフトマンシップ」
連載コラム『日本工芸の歩む道』後編「現代社会と工芸」 VOL.2
展覧会情報やインタビューなど、工芸に関するさまざま情報を発信しています。
富山県高岡市は鋳物の産地として知られ、国内に流通する仏具金物の9割を製造している。この地で1907年に創業したのが、株式会社山口久乗だ。仏具の制作と卸を行いながら、仏具の一部である「おりん」の音に着目し、独自の商品展開をする。「仏具以外に日常生活で使ってもらえるものをつくりたい」と願っていた現社長の山口敏雄さんが、くらしの道具としてのおりんの開発を進めてきた。
溶かした金属を型に流し込む鋳造の現場は、火との闘いだ。並々ならぬ技術と体力が必要だが、山口久乗ではこの鋳物の伝統技法を大切に育て続けてきた。豊かなおりんの音を実現するには、鋳込みの作業以外にも、「削り」や「磨き」などの高い技術が求められる。また、表面には着色やメッキ、彫金や彩色といったいろいろな技法が施されて、多様なおりんが完成する。
2010年には、ドアベルや楽器など日常的な楽しみ方ができる「久乗おりん」のブランドを発足。ギフトショーに初出展し、クラフトデザイン大賞を受賞した。これが百貨店やライフスタイルショップなど、仏具では関わることのなかった販路の開拓につながった。2016年、イタリアミラノのトリエンナーレ美術館にて、おりんの演奏会を開催。人の心に働きかける美しいおりんの音が、宗教や国境を越え、世界の人びとの幸せの根幹・心の健康に寄与することを願っている。