Insightインサイト

展覧会情報やインタビューなど、工芸に関するさまざま情報を発信しています。

展覧会情報

展覧会一覧へ

『第69回日本伝統工芸展』展覧会レポート

1954年に始まった日本伝統工芸展。今年で69回目の開催

『日本伝統工芸展』は、日本の優れた伝統工芸の保護と育成を目的に開催される公募展。全国各地の数多の工芸作家が切磋琢磨し、技術の粋を尽くして制作した作品が出品される、日本工芸の技と美が集結する展覧会だ。第69回目の展覧会は、2022年9月14日(水)〜9月26日(月)、東京 日本橋三越本店にて開催され、陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形、諸工芸7部門の一般公募作品1,158点より厳正な鑑審査を経て選ばれた入選作491点、および重要無形文化財保持者(人間国宝)の最新作を含む558点を一堂に展覧した。受賞・入選作品の鍵となるのは、「技術力、芸術性、創造性」。伝統を受け継ぐことはもちろん、それにとどまらず新たな美を創造し続けることが、未来に続く伝統を築いていくことに他ならない。

日本工芸会総裁賞を受賞したのは、大分県の竹工芸作家 河野祥篁作《透網代花籠「朝露」》。仏像の蓮華座をイメージしたという意匠は気品ある趣を湛え、透かし網代編みを胎とした精緻な作りはさすがと言うべきだろう。長年竹工芸に従事してきた作家の技術力には、目を見張るものがある。太さの異なる竹ひごに纏わせた漆の落ち着いた光沢は、「朝露」の名の通り、静謐に美しく輝いている。

<日本工芸会総裁賞>
河野祥篁(かわの・しょうこう)
《透網代花籠「朝露」》

文部科学大臣賞を受賞した《備前白泥混淆花器》は、岡山県備前を代表する陶芸家隠﨑隆一の手による作品。隠崎氏は、備前焼に伝統的に使われてきた良質な田土(ひよせ)が年々減少していることを鑑み、田土と数種の土をブレンドした「混淆土(こんこうつち)」を実験的に用いる作陶に取り組んでいる。混淆土を使った素地に白い塗り土を施し、無釉で焼成された本作は、深みのある表情と存在感で観覧者を魅了した。備前焼を未来につなぐため新たな備前焼に挑む、作家の独創的な表現が評価された。

日本工芸会新人賞を受賞した《硝子鶴首花入「凛然」》は、島根県出雲を拠点に活動するガラス作家、川邉雅規の作品。ガラスを幾層にも重ね合わせるオーバーレイという技法を用い、最後に削りを施すことで、大胆に層を表出させた。奥行きを感じさせるグラデーションが見事である。普段は現代アートの世界で活躍する川邉氏の、確かな技術力と芸術的感性は、伝統工芸の世界においても高い評価を得た。

2022年9月1日(木)〜10月23日(日)まで、来年の開催に向けてのクラウドファンディングプロジェクトが実施され、目標金額を大幅に上回る1,600万円以上の寄付金が集まった。日本伝統工芸展の開催継続を願う人々から、これほどの支援が集まったことは喜ばしいニュースだ。記念すべき第70回目となる来年の展覧会も待ち遠しい。

文:堤 杏子

■ 『第69回日本伝統工芸展』地方展予定

2022年
11月17日(木)~12月4日(日)
岡山県立美術館

12月7日(水)~12月25日(日)
島根県立美術館

2023年
1月2日(月・振休)~1月16日(月)
香川県立ミュージアム

1月20日(金)~1月25日(水)
仙台三越

2月1日(水)~2月6日(月)
福岡三越

2月15日(水)~3月5日(日)
広島県立美術館

3月9日(木)~3月14日(火)
大阪高島屋

SHARE WITH

KOGEI STANDARD

編集部

KOGEI STANDARDの編集部。作り手、ギャラリスト、キュレーター、産地のコーディネーターなど、日本の現代工芸に関する幅広い情報網を持ち、日々、取材・編集・情報発信を行なっている。