「クラフトマンシップ」
連載コラム『日本工芸の歩む道』後編「現代社会と工芸」 VOL.2
展覧会情報やインタビューなど、工芸に関するさまざま情報を発信しています。
榛原は1806年、東京・日本橋で小間紙屋として創業。和紙が暮らしに欠かせないものであった時代に、良質な雁皮植物を原料とした「雁皮紙」が書写紙として人気を博した。また、著名な画家たちが、木版摺りで榛原の団扇や扇子などに多様な絵柄を施していたこともあり、明治期には、榛原の和紙作品は万国博覧会へも出品され、海外でも高い評価を受けた。その後、産業の発展とともに新たな計測器が海外から輸入されるようになると、榛原は、日本で初めて計測記録紙の製造にも成功した。
榛原の長きに渡るこだわりの一つが、版木に顔料をのせて和紙に摺りこむ「木版摺り」だ。創業以来、木版摺りで文様を施した便箋や金封を取り扱っており、その鮮やかな色彩は、現代においても榛原の商品の特徴であり続けている。また、明治から昭和にかけて活躍した作家が原画をデザインした千代紙も多数収蔵されており、近年は、それらの復刻も行う。
現在は7代目となる中村達男さんが主な経営業務を担い、オリジナル柄の復刻を行うなど、和紙の原点に立ち戻った取り組みを続けている。2016年には、日本橋本店がグッドデザイン賞を受賞。本店では、日本の礼節や作法を伝えるために、贈答の場面に合わせ、水引を手で結び熨斗をつけるという心配り。榛原は、「和紙のある暮らし」を提案し続けている。