「クラフトマンシップ」
連載コラム『日本工芸の歩む道』後編「現代社会と工芸」 VOL.2
展覧会情報やインタビューなど、工芸に関するさまざま情報を発信しています。
17世紀後半から肥前鍋島藩の御用窯が置かれ、献上品などの高品質な伊万里鍋島焼が作られてきた佐賀県伊万里市大川内山。門外不出の技術を誇り、「秘窯の里」とも呼ばれるこの地に畑萬陶苑が創業したのは昭和の黎明、1926年のことである。初代の畑石萬太郎により、「萬祥窯」の名で始まった同社は、約90年間、その技術を大切に守り伝えながら、積極的に新商品の開発や技術革新に取り組んできた。2代目の春幸と3代目の正博の代では、自然豊かな大川内山の風景を思わせる「山水絵」の商品で、美しく上質な畑萬ブランドとして確固たる地盤を築いた。1990年代に入ると、現在の社長であり4代目の眞嗣さんが人形やオブジェ、香水瓶を開発。磁器ならではの扱いやすさや、日本の自然美を繊細に表現した絵付けで人気となった。現在は、次世代の担い手である息子の修嗣さんとともに、新たな時代の鍋島焼の製作に励んでいる。
畑萬陶苑では、染付に赤、黄、緑の三色で上絵付を施す伝統的な色鍋島を中心に、光に透けて白い磁肌に絵柄が浮かび上がる「透かし彫り」や、皮革のような質感と光沢を表現した「キュイール」など、独自の表現技法を駆使した商品製作を行なっている。代表作品の一つである香水瓶は、今から約20年前に、食器の枠を超えた斬新な商品企画から生まれたもの。栓がぴたりと閉まる精巧な造りは、難易度が非常に高く、一流の手仕事の真価が発揮されている。また、絵付けの完成度はさすがの一言で、一つひとつ端正に描き込まれた見事な意匠に、畑萬陶苑らしい品格が見て取れる。
5代目の修嗣さんは、自社の絵付け技術を 活かした様々な取り組みに、伝統ある鍋島の美を伝えていく可能性を見出している。2016年には有田焼400周年事業の一環である「2016/Project」に参加し、新商品の開発やミラノ・サローネをはじめとした国際見本市への出展などを経験。ブランディング戦略やデジタル技術の導入など、新たな道を切り拓いてきた。2019年には、スケートボードブランドとのコラボレーションで若年層への訴求にもチャレンジしている。修嗣さん曰く、「絵を描くことは言葉を描くこと」。絵も言葉も、大切なのは伝え方。代々挑戦を続けてきた畑萬陶苑による、さらなる飛躍が期待される。