インタビュー:陶芸家・加藤亮太郎
VOICE VOL.7
展覧会情報やインタビューなど、工芸に関するさまざま情報を発信しています。
菅原工芸硝子の創業は1932年。東京都江東区亀戸でガラス職人の菅原一馬さんが立ち上げた、ガラス製品の受注生産が始まりだった。後に、千葉県東部の九十九里に移転。遠浅の砂浜、果てしない海と空の青が広がるこの場所に工房を構えたスガハラは、それまでの受注生産中心の事業から、自社開発製品の企画・製造・販売へと舵を切る。まもなくして、コーヒーゼリーのための器《コーヒーゼリー》が人気を集め、各地の喫茶店で使用されるようになった。自社で試行錯誤して生み出した製品が多くの人に使われているという事実は、スガハラの核ともいえる「使い手の暮らしに寄り添うものづくり」の精神を育んだ。現在は3代目の菅原裕輔さんが代表を務め、「作り手から使い手まで、製品にかかわる全ての人のささやかな幸せを目指す」という企業理念を掲げ、事業を展開している。「使い手の喜びを目標とする一方で、それは作り手である職人や、ひいてはそれを届ける直営店の従業員など、かかわる人々がみな幸せでなければ実現しない」と、裕輔さんは語る。特に、職人の世界には当然厳しさもあるが、やはり「作り手が楽しみながら技術を磨き、良いものを作り、使い手であるお客様に喜んでもらうのが一番」なのである。
スガハラの最大の強みは、ガラスを形作るための引き出しをたくさん持っていることだ。型吹きから宙吹き、さらには吹かずに作るものまで、さまざまな技法を駆使することで驚くほど多様な商品展開を実現している。これは、職人たちの積極的な製品開発への取り組みによるところが大きい。裕輔さんがただ一つ職人たちと約束しているのは、「暮らしの中で使えるものを作ること」。そのために用いる技法は問わない。こうした自由な開発・製作の可能な風土が、職人たちのものづくりへの意欲を高め、多くの製法を活用する技術を育ててきた。ガラスを最もよく知る職人だからこそ、ガラスの美しさをうまく引き出すデザインや製法を考案することができる。彼らがスガハラの強さを支えてきたであろうことは、想像に難くない。
そんな数あるスガハラの商品の中でも、発売以来27年間にわたり売上のトップを走り続けるのが、代表作《duo(デュオ)》シリーズだ。二層のガラスでデザインされたこの商品には、スガハラ独自の技術が活用されている。通常、地域によって人気商品は異なるというが、デュオは世界中で高い評価を得ている。ポストコロナ時代を迎えた今、2019年に発足した空間を彩る建築・内装のためのブランド《Sghr Materials(エスジーエイチアール マテリアルズ)》にも、より一層注力していく方針だ。これからもスガハラらしいものづくりが、多くの人の暮らしを彩っていくことだろう。