『特別展 加藤亮太郎 半白記念展』が古川美術館 分館爲三郎記念館で開催
注目の展覧会・イベント VOL.60
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愛知県
2024.10.1 – 11.17
古川美術館 分館 爲三郎記念館
東京都
2024.10.4 – 10.9
銀座 日々
京都府
2024.10.4 – 10.16
京都 やまほん
2024.10.4 – 10.22
Sophora
輪島キリモトの始まりは小さな漆器店だった。江戸時代後期から輪島塗の塗師として活動する傍ら、地元の職人たちの組合の代表を務め、輪島の発展を支えてきた歴史が『輪島市史:資料編第6巻 輪島漆器資料』に記録されている。昭和初期には、5代目の桐本久幸さんが朴木地屋(ほおきじや)へ転業し「桐本木工所」を設立した。輪島が位置する能登半島は能登ヒバ(あすなろ)をはじめとした木材が豊富で、木は伝統的に住宅の建材や漆器の素材として活用されてきた、身近な存在である。桐本木工所はそれらの木材を使った複雑な形状の刳物や彫物の製作を得意とし、さらには家具全般の製造も手掛けるようになった。現在は7代目の桐本泰一さんが代表を務めている。桐本さんは朴木地屋としての事業を礎としながら、1990年代からは再び漆器づくりにも関わり、木地から漆塗りまで一貫したものづくりを可能にした。それは桐本木工所の確かな強みとなり、2015年には商号を「輪島キリモト」へと変更。新たな輪島の発展に尽力している。
桐本さんは大学でインダストリアルデザインを学び、当時の恩師の教え「“How”から考えるな、“What”から考えなさい」を今も指針としながら仕事に取り組んでいる。「“どうやって”、いわゆる手段論から入ってはいけない。より気持ちのよい、よりほっとする、より便利な暮らしを実現するには “何”をすべきか。それを考えるのがデザインだと学びました。大学時代から“What”について考え始め、今も考え続けています」。その思考法は、輪島キリモトのさまざまな取り組みの源泉となっている。地の粉の性質を生かした傷のつきにくい「蒔地」や、筋模様が美しい「千すじ」などの漆塗り技法の開発はその一例だ。近年は木材加工技術と豊富な漆塗りのバリエーションを生かした建築内装も多数手掛ける。工房併設のショールーム「漆のスタジオ」には最新のデジタル機器を導入し、オンラインでも漆の質感を適切に伝えながら打ち合わせを実施できる空間を作り上げた。
輪島キリモトは、漆のオーダー家具製造や建築内装事業を改めて強くPRし、経営基盤を強化することを直近の目標に据えている。これには、小さな器から大きな家具までを天然の木と漆で作ることで、輪島という産地の幅広さを知ってもらいたいという目論見もある。そして忘れてはならないのが、輪島キリモトの挑戦に賛同する職人たちの存在だ。「職人と一緒に、力を合わせてやっていくことが最も重要だと思います。それがきっと工房や町の活性化――輪島の“街育て”につながっていくに違いないと思っています」と話す桐本さんの言葉には、職人への感謝と次世代育成への熱意があふれる。勉強会を開いて自ら若手職人や漆器店の後継者たちと意見交換を行なったり、伝統工芸やものづくりのキーパーソンを招聘して講演を行なったりと、その活動は精力的だ。伝統ある輪島という街がこれからどう育っていくのか、楽しみである。
※この記事は、2023年12月に作成されたものです。令和6年(2024年)能登半島地震で被災された方々に、心よりお見舞い申し上げます。