「クラフトマンシップ」
連載コラム『日本工芸の歩む道』後編「現代社会と工芸」 VOL.2
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1908年に木地挽きの産地、石川県山中温泉に木地屋として創業した我戸幹男商店。優れた企画販売力によって、伝統的な技術と高いデザイン性を併せ持つ商品を積極的に展開し、山中漆器の魅力を国内外に広めている。
今春、新たに開設された「我戸幹男研究所」は、山中漆器産業を次世代の若い人たちが継続して引き継ぐことを望んで、我戸幹男商店が設立した工房だ。従来、伝統的な漆器製品が主力であった山中漆器だが、プラスチック製の近代漆器の発展や海外からの輸入漆器の増加により、市場での競争力が低下。職人の数の急激な減少も課題となっている。我戸幹男商店は外部のデザイナーとの商品開発やブランディングを推進し、有効なデザイン経営によって新しい顧客層に山中漆器を広めているが、我戸幹男研究所の設立により、伝統工芸従事者の作業環境を改善し、旧態イメージを払拭する作業場を新装することで、持続可能な産業としての山中漆器の価値・需要の創出にも取り組んでいく。
研究所は設立の構想段階から、デザイナーや設計士の意見を多く取り入れ、建設中に発生した問題点も話し合い、妥協せずに作られた。作業工程ごとに広くスペースを取り、仕切りを全てガラスで製作することで、閉塞的になりがちな工房内を開放的に見せ、また各工程がエントランスから見学できるように設計されている。今までの漆器の工房にはない、クリーンで洗練されたイメージが新鮮だ。工房以外の、休憩室や施設内の備品にも細かく気を配り、ここで働く未来の山中漆器産業を支える職人がものづくりに向き合える環境を形にしている。
長年培ってきた経験をもとに、現代の環境変化に柔軟に対応し、製品面だけではなく、業界全体の問題解決に取り組む我戸幹男商店。求人募集や施設の見学についてもウェブサイトから問い合わせを受け付けている。
■ 関連情報
我戸幹男研究所
https://gatomikio-lab.com/