「クラフトマンシップ」
連載コラム『日本工芸の歩む道』後編「現代社会と工芸」 VOL.2
展覧会情報やインタビューなど、工芸に関するさまざま情報を発信しています。
石川県の山深い渓谷にある山中温泉では、古くより多くの職人が日本独自の木地挽きの技術を継承し、木地の美しさを見せる漆器を作り続けてきた。田中瑛子は自分の理想の形を追い求めて、山中の地で研鑽を積んだ木地師であり漆芸家だ。作家として伝統的に分業制の漆器制作の全てを自身で行っている。
三日月のように削られた口縁が光る本作は、幾多の工程を経て生み出されている。柔軟性や杢目など、それぞれ異なる木の特徴に目を配りながら、その木に最適な形をろくろで削り出す。さらに赤と黒の漆を塗っては研いでを繰り返し、丹念に艶やかな模様を引き出していく。宵の空にたなびく雲のような杢、そこにかかる月のような美しい風情は、木の個性と向き合う作家の情熱の賜物だ。
新たな姿形を与えられた栃は人々の傍で輝き続けるだろう。妥協なき技の結晶であり、作家の心がこもった作品は、日本から世界へ、次の時代へと受け継がれていく。