「クラフトマンシップ」
連載コラム『日本工芸の歩む道』後編「現代社会と工芸」 VOL.2
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艶をまとった黒、枯れたような黒。凹凸や細かな模様。黒で埋め尽くされた一枚の板に現れる数々の異なる質感が、黒という色の奥深さを物語る。
杉田明彦作『Untitled』は、下地となる木材に麻布を掛け、その上から黒漆を塗り重ねて制作された。麻布は、「乾漆」と呼ばれる漆芸の伝統的な技法に使われる。この麻布のしわや模様が、先述したような独特の質感を生んでいる。伝統が育んだ確かな技を基盤に、本作は一つの作品として高い芸術性と完成度を誇る。
漆器の一大産地である石川県輪島で修行を積んだ杉田氏は、古物に見られるような落ち着いた色合いや空気感の表現に長けている。一方で、彼の作品には現代の空間にも違和感なく溶け込む力がある。温故知新を体現した作品は、潤いある生活空間の演出に一役買ってくれることだろう。