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『澤克典 信楽展』展覧会レポート

2021年4月10日(土)〜18日(日)、浅草 陶ギャラリー とべとべくさにて、信楽の陶芸家 澤克典さんの個展が開催されました。

澤さんの手掛ける作品の特徴の一つに、バリエーションの豊かさが挙げられます。土と炎の力強さが伝わる信楽、個性豊かで遊び心のある絵付けが楽しい織部。そのほか志野や引出黒など、その手から生み出される作品は多種多様な魅力を備えています。その中でも、今回は「信楽」の作品に特化した展覧会です。薪窯を焚くこと4日、完成した作品がずらりと並び、圧巻の迫力で迎えてくれました。

信楽焼は、釉をかけず、土を成形して焼くのみのシンプルな制作過程ですが、土、造形、焼きの違いから、驚くほど多彩な作品が生まれます。今回も、自然釉の美しい茶碗、どこか愛嬌のある表情の狛犬、信楽の象徴的な色である緋色の食器、個性的な形の花入などが勢揃い。花入に品良く生けられた花々は、澤さん自ら信楽の山で採取してきたものです。作品と花が、見事に互いの美しさを引き立て合っていました。

多彩な表情の作品群

青緑色の自然釉が美しい

高温での焼成に耐え、自然のエネルギーを纏って完成した作品は、一つとして同じものはありません。特筆すべきは、焼成中に窯から引き出し急冷させる「引出」の技法を用いた作品。窯の中で降り掛かった灰が高温で溶けてガラス質となり、さらに急冷されることできらきらと輝く美しい青緑色になります。お酒を飲むとき、ぐい呑の見込みにこの景色が見えたら、極上の幸せを味わえることでしょう。しかし、窯の中でも引き出せる場所は限られているため、引き出しの作品はそれほど多くは取れません。「特にぐい呑は小さいので難しい。窯の中で転がっていったり、埋もれたり」という貴重な代物です。今回は、ほんのりと薄紫色をしたぐい呑もありました。澤さんによれば、こちらもなかなか見られる色ではないそうです。

個展を開催するたび、新たな表情でファンを楽しませてくれる澤さんの信楽作品。今後の展覧会も大いに期待されます。

文:堤杏子

■ 関連リンク

・澤克典 プロフィール
https://www.kogeistandard.com/jp/artist/katsunori-sawa/

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KOGEI STANDARD

編集部

KOGEI STANDARDの編集部。作り手、ギャラリスト、キュレーター、産地のコーディネーターなど、日本の現代工芸に関する幅広い情報網を持ち、日々、取材・編集・情報発信を行なっている。