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李荘窯 寺内信二 作品展『泉山への回帰』展覧会レポート

手作りの茶碗や宝ひんが並ぶ

2021年11月12日(金)〜27日(土)、赤坂 HULS Gallery Tokyoにて、有田焼の窯元である李荘窯の四代目当主、寺内信二さんの作品展が開催された。同ギャラリーでは今回で3度目の開催となる寺内さんの作品展。普段は窯元の当主としてものづくりに携わる寺内さんだが、本展では、ろくろで制作した新作の抹茶碗、宝ひん、ぐい呑、花瓶など、染付や白磁の作品を中心に展覧した。加えて、特に注目したいのは、全ての作品が泉山陶石のみを原料に用いて制作されたこと。有田焼の原点に立ち戻り、これからの産地としての在り方に真摯に向き合う。

有田は、日本で初めて誕生した磁器の産地。17世紀初頭にこの地で泉山陶石が発見されたことに端を発する。それからおよそ200年の間、泉山陶石は有田焼の発展に大いに貢献してきたが、扱いづらさなどの理由から今ではほぼ使われておらず、現代の有田焼のほとんどは天草陶石を原料に生産されている。

この状況の中、寺内さんは産地の原料を使うことの意味を今一度見つめ直す。地元の原料を使用していない有田焼は、果たして有田焼と言えるだろうか。有田焼ならではの、次世代にまで続いていく価値とは何だろうか。「新型コロナウイルスで一度世の中がリセットされた今こそ、原点回帰する時。ここをスタート地点として、これからの新しい有田焼を創造していきたい」と語る寺内さんの眼は、真剣そのものだ。

寺内信二さん

寺内さんの染付作品は、見ているだけで楽しくなるような、味わい深い絵付けが魅力。ぐい呑をそれぞれ覗き込んでみるとよくわかる。一方、水切れの良さを意識して作られた機能性の高い宝ひん、幅広い用途に使えるミニ片口も、訪れた方々に好評だった。作品の土は全て泉山陶石だが、透明釉や呉須の調合、焼き方を工夫することで、一つひとつ異なる豊かな表情が生まれる。古伊万里に範を取り、当時の陶工に想いを馳せながら制作された器たちの、絵付けの筆遣いや釉掛けの指跡一つひとつに、寺内さんの有田焼への想いが込められているようであった。

文:堤 杏子

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KOGEI STANDARD

編集部

KOGEI STANDARDの編集部。作り手、ギャラリスト、キュレーター、産地のコーディネーターなど、日本の現代工芸に関する幅広い情報網を持ち、日々、取材・編集・情報発信を行なっている。