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『信楽 鈴木大弓展』展覧会レポート

日常に取り入れやすい器が並ぶ

2022年3月26日(土)〜3月30日(水)、東京 永福の穴窯陶廊 炎色野にて、三重県伊賀で作陶を行なう鈴木大弓さんの個展が開催された。炎色野は、20年以上に渡り同時代の作り手によるやきものを展示販売してきた老舗ギャラリー。鈴木さんは、2011年以降、ここで毎年個展を開いている。今回は信楽をはじめ、粉引、鉄釉、三島、白磁、青磁、染付など、多彩な作品群約200点を展覧。見応えのある作品展の様子を紹介する。

新作の《信楽 茶碗》。流れる自然釉が美しい

《青磁 盃》。さまざまな色調を楽しめる、表現の幅広さが魅力

本展のメインビジュアルにもなっていた《信楽 茶碗》は、「引き出したとき、すぐに『今回のDMの表紙にしよう』と思いました」というほどの自信作。しっかり焼き締まった質感と自然釉の流れが美しい、見どころの多い作品だ。焼締は、薪窯焼成による作品それぞれの個性豊かな表情が魅力。たくさんの作品の中からお気に入りを見つける楽しみを与えてくれる。食器も充実していて、青磁のぐい呑には焼締に勝るとも劣らない幅広い表現が見られた。使用する土の種類の違いによって、色調が大きく変わってくるのだという。それぞれ印象の異なる青磁を比べて鑑賞するのも一興だ。育て甲斐のある器として人気の粉引は、搔き落としで漢詩が刻まれた徳利が目を引いた。記されていたのは、李白の『月下独酌』。なんとも粋な作品である。

今回は初めて染付の作品も登場。韓国の古いやきものによく見られる絵柄を参考にしたという。作品の柔らかな雰囲気とにじみ出る味わい深さは、「絵が下手だから練習しています」と謙遜する作家の、作品に対する真摯な姿勢からくるものだろう。すでに多様な釉や土を使いこなす鈴木さんだが、絵付けは今後の彼の作品のなかでも注目すべき焦点の一つになってくるかもしれない。

ぐい呑。染付は作家の意欲作

本展の最中、お客様やギャラリー店主と和やかに談笑していた鈴木さん。「お客様からアドバイスをいただくことも多いです。次に作る作品のインスピレーションになります。ありがたいですね」と話す。常に進化し続ける鈴木さんの作品の魅力の源泉を垣間見たような気がした。

文:堤 杏子

■ 関連情報

・穴窯陶廊 炎色野
https://www.hiirono.com/
〒168-0064 東京都杉並区永福3-33-9
TEL: 03-5357-8332
営業時間 12:00〜18:00 ※展覧会によって異なります。詳細はギャラリーまで直接お問い合わせください。
定休日 不定休

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KOGEI STANDARD

編集部

KOGEI STANDARDの編集部。作り手、ギャラリスト、キュレーター、産地のコーディネーターなど、日本の現代工芸に関する幅広い情報網を持ち、日々、取材・編集・情報発信を行なっている。