「クラフトマンシップ」
連載コラム『日本工芸の歩む道』後編「現代社会と工芸」 VOL.2
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柳下さんのやきものは、信楽焼や伊賀焼のほか、志野焼や織部焼など幅広く、酒器や花器、茶器など多彩だが、いずれも桃山時代に完成された侘び寂びの世界を体現している、という点で共通している。柳下さんは、「侘び寂びは、形や風情にあらわれる」と語る。例えるなら、藤原定家の短歌『見渡せば花も紅葉もなかりけり 浦の苫屋の秋の夕暮れ』を聞いた時に、多くの日本人が心に抱くイメージ、とのことだ。近年は、松尾芭蕉の言葉「不易流行」をテーマとし、長い歴史を持つ陶芸の技の中で変化を取り入れながら、自作の中で足りない部分を探し、常にブラッシュアップを試みているという。
柳下さんは、作りたいもののイメージはあるものの、偶然に左右される陶芸の性質にも惹かれるという。陶芸の材料は天然のものなので、同じ素材を揃えたつもりでも微妙に成分が異なる。例えば、黒い茶碗の色に黒と鉄錆を使うことがあるが、時に錆色が紫色に変化する。その色味は、調合を同じにしても再現できないこともあるという。そのため数値化された配合より、自分の経験を頼るのが一番確かだそうだ。また、やきものは火で変化し、窯から出てくるまで仕上がりがわからないが、想像以上のものができることもある。陶芸の、理想に近づけるために緻密な計算が必要な要素と、偶発的な要素が混在する「歯がゆい面白さ」に魅了されるという。
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