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INTRODUCTION

北海道で生まれ育ち、この地で生きる意味とは。ものづくりとリンクする、シンプルな答え。

北海道の自然の中で描き溜めた、たくさんのスケッチ。透明なガラスに映し取られたそれは、あふれんばかりの生命力で、私たちを惹きつける。

今、西山雪のガラス作品は、国内外で高い人気を誇っている。彼女のスタイルのルーツはどこにあるのか。なぜ、北海道の自然を描くのか。ものづくりへの向き合い方を伺った。

インタビュアー / 堤 杏子(HULS)

  • 西山 雪さん ガラス作家

    北海道を拠点に創作活動を行なうガラス作家。ガラス作家である父の影響のもと、長じて富山でガラス造形の技術を学び、高橋禎彦氏に師事。豊かな自然を描き、その生命力を繊細に表現した作品が特徴。宙吹きからカット、絵付けまでの全ての工程を手掛けることで、絵と形がリンクした奥行きある世界観を創り出している。

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《ふゆのしらせ ―野ぶどうと雪虫―》 2021年制作

──ガラス作家の道に入ったきっかけを教えてください。

父親が吹きガラスの作家だったので、小さいころからガラスが身近にある環境で育ちました。ものづくりや絵を描くことが好きな子供でしたね。高校の美術部で初めて日本画に出会い、それがとても楽しくて夢中になりました。授業をさぼって、ずっと部室にこもって絵を描いたり。絵を描くということの基盤みたいなものは、3年間の高校時代にあると思います。

北海道の近代美術館で日本の現代ガラスを集めた展覧会があったのですが、そこにはガラスには見えないカラフルなオブジェや大きな塊のモニュメントが並んでいて、それまで器の素材としか見ていなかったガラスの可能性を見て、大きなショックを受けました。元々ガラスに興味はありましたが、そこからガラスをやってみたいという思いが明確なものになりました。それから秋田の工芸学校に進み、一通り他の素材も扱ってみたのですが、やっぱりガラスが一番しっくりきました。

──印象に残っている海外での体験はありますか?

富山ガラス工房でスタッフとして働いていた20代半ばのころ、1週間ほど北欧へ研修旅行に行かせてもらえることになりました。当時北欧のデザインが好きで、憧れの北欧のガラス工房やショップを見てくることができたのですが、北欧の空気感って「北海道に似てるな」って思ったんです。初めて現地の空港に降り立った瞬間、千歳空港かと思っちゃって(笑)。自分が憧れていたものが、一周まわって故郷だった。それはとてもショックなできごとでした。

それから約1年後に、スウェーデンのラップランドを拠点に活動されている、ガラス作家のモニカ・エドモンドソンさんのアシスタントとして、約1カ月間現地に滞在する機会をいただきました。ホームステイしながら彼女の仕事を手伝っていたとき、彼女が「私のアイデンティティは、サーミの血を引いていること。私にとって、“この場所で”アートピースを作ることに、意味があるの」と話してくれました。彼女が作るアートピースは、ラップランドの先住民族であるサーミ族の伝統的な衣装に使われる色彩で表現されたもの。彼女の言葉は、私が初めて自分自身のアイデンティティについて考えるきっかけになりました。「憧れのものがずっと生まれ育った場所にあった」ということが、半分はがっかりだったけど、もう半分は「それはどういうことなんだろう」と。

──大きなターニングポイントとなりそうなできごとですね。

モニカさんのところに1カ月居て、一番の気づきがそれでした。富山ガラス工房に勤めていたころにも、「なんのために作っているのか」をすごく考えた時期があったんです。工房では、リサイクルできない材料は産業廃棄物になります。型に使う石膏も、山のようなゴミになる。一生懸命技術を習得するために練習するのですが、やればやるほどゴミを出してしまう。このまま作り続けて良いのかな、お金をかけてゴミを作っているのかな、と考えてしまって、手が止まる時期もありました。でも彼女のように、自分が作る意味を明確に持っている方と出会ったことで、自分の中でも柱というか、根幹となるものをまず自分の中で見出さないと、これからちょっとしたことで揺れてしまうと思いました。自分がどうしてものを作るのか、自分が今なぜここに居るのか。それをきちんと自分で腑に落ちるところまで考えてから、ものを作るということと向き合っていかないと。

北海道の雪景色

──現在の西山さんの作品は、のびのびとした吹きガラスと生命力あふれる自然を描いた繊細な絵付け表現が人気ですが、どのようにしてこのスタイルに辿り着いたのでしょうか?

富山ガラス造形研究所の学生だった20歳の時に参加した、アメリカのピルチャック・グラス・スクールでのワークショップで、自分が紙に細かく描き込んだ絵をそのままガラスに彫り起こす技法を習いました。そのとき、自分が昔好きだった「絵を描くこと」と「吹きガラス」が融合したのを見て、胸が躍ったのを覚えています。卒業制作も絵柄を入れたガラスの作品を制作しました。でも、いつのころからか、ガラスに絵を描くという発想は無くなっていて、楽しさも忘れて、もがいていた。北欧でいろいろなことを吸収したはずなのに、わからなくなってしまって。暗黒時代でした(笑)。人生で二度とないくらいに落ち込んでたくさん考えて、いろいろ試したけど、なにもかもがだめでうまくいきませんでした。そういう時期が長く続いて、ギャラリーに売り込みに行っても、ことごとく断られていました。

そんなとき、周りの人たちに背中を押されて、憧れだった六本木のギャラリー「サボア・ヴィーブル」さんへ作品を持って行きました。やっぱり「全然だめ」と言われてしまいましたが、それでもオーナーは、私が学生時代に制作した絵やポートフォリオまで全て丁寧に見てくれました。そして、「面白いことやってたじゃない」「絵は描かないの?」と。

それで、「売上のことは気にしなくていいから、自分が楽しむことだけ考えて作りなさい」と、翌年に個展を入れていただきました。学生の時の作品を見て、「このとき楽しかったでしょ」って。たしかに、そのときは「楽しい、作りたい」という気持ちだけで制作していた。そういうのを忘れていたんですよね。それからアドバイスをいただきながら試行錯誤を重ねて、個展の2カ月前くらいにやっとOKが出ました。それが、サンドブラストと筆での絵付けを組み合わせた、今のスタイルの原型でした。日本画では面相筆という細い筆を使うんですが、再びその筆をとって描き進めた瞬間に、ぴたっとくる感覚がありました。ずっと筆で絵を描くことを忘れていたけれど、「そうだ、ガラスに筆で絵を描いていいんだ」って。

──現在の創作活動の中で大切にしていることはありますか?

生まれ育ったところは田舎でなんにもないところだと思っていたのに、振り返るとモチーフが山のようにあることに気づきました。それから、自分の足元をきちんと見ようと、毎日散歩をするようになって。自分の意識が変わると、今まで見ていた景色も色鮮やかに見えるようになりました。そうしたらもう、「もっともっと北海道を楽しみたい、せっかく自然の中に暮らしているのにもったいない!」と思うようになりました。湖で泳いだり、山登りやスノーボードなどを通して、今までとはまた違う景色が見えてくるんですよね。新しい植物に出会ったり、そこでしか生息しない生きものがいたり。それが、自分も北海道で生まれ育ち、今ここにいる意味とつながってくるように感じました。ものづくりをすることが、暮らしとリンクしてくる。自分が楽しいこと、北海道で生まれて生きているということ、ものを作るということの全てが上手く噛み合い始めています。本当にありがたいことに、それに伴ってお客様が増えてきました。自分がもっと楽しめばいいんだ、ものごとは本当にシンプルなんだと、やっと少し実感してきた感じですね。

──今後の展望は?

今、羽根が生えかけてます(笑)。もう少ししたら飛べる予感がする。作ることや食べること、外でのアクティビティなど、暮らしの全てを通して自分自身が今とても幸せを感じているから、それをどうガラスに落とし込んでいくかですよね。作りたいものも描きたいものもたくさんありますが、自分の心が動かないと、お客様の心を動かすことは絶対できない。私、ガラスに絵を焼き付けて窯を開けた瞬間――その作品の完成の状態を見る最初の瞬間、やっぱり心が動くときがあるんです。「今回のすごく良い、素敵!」って。その回数を増やしていきたいなと思います。そのほうが自分も楽しいし、観る人を楽しませることもできると思うから。

 

写真:伊藤留美子(ポートレート・作品)、小菅謙三(工房)

 

■ 展覧会情報
『西山雪 展』
会期:2022年11月19日(土)~11月27日(日)
会場:サボア・ヴィーブル(東京都港区六本木5-17-1 AXISビル3F)
https://savoir-vivre.co.jp/

※会期等は予告なく変更となる場合がございます。最新情報はギャラリーに直接ご確認ください。

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編集部

KOGEI STANDARDの編集部。作り手、ギャラリスト、キュレーター、産地のコーディネーターなど、日本の現代工芸に関する幅広い情報網を持ち、日々、取材・編集・情報発信を行なっている。