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注目の陶芸家/酒器 2022

近年、鮨や割烹などの和食とともに、日本酒が海外へと広がりを見せている。輸出額は年々増え、2021年度の輸出額は400億円にも達した。その波に乗り、作家の個性的な酒器にも注目が集まってきている。中でも「ぐい呑」という言葉は、英語でそのまま「Guinomi」として通じることも多くなってきており、海外での酒器への関心の高さを映し出している。

ぐい呑は、見て楽しみ、触れて楽しみ、呑んで楽しむことができるものだ。また、直接口に触れるものであるため、素材や形による味の違いを感じることができる。冷酒に合うもの、熱燗との相性の良いものなど、その奥深い酒器の世界に魅了される蒐集家も増えており、日本の工芸品の大いなる可能性の一つと言えよう。今回、編集部が注目する酒器の作り手として、5名の陶芸家を紹介する。それぞれの特徴を感じながら、気になる作家の作品は、ぜひ実物を手にしてみてほしい。

加藤亮太郎(岐阜県多治見/1974-)

岐阜県の多治見にある伝統的な窯元「幸兵衛窯」の八代目であり、陶芸家としても活躍する加藤亮太郎。手がける酒器作品は、「志野」「織部」など、すべて美濃や瀬戸の地に根づくものだ。志野は穴窯でじっくりと焼成され、もっちりとした器肌が美しい。茜志野、鼠志野、小倉志野といった多彩な種類を操る豊かな表現力も、注目したい点のひとつ。織部は、お酒を注ぐと見込みの表情が煌びやかに変化し、その景色に魅了される。

中里太亀(佐賀県唐津/1965-)

酒器の世界では、「備前の徳利、唐津のぐい呑」と言われるほどに、多様な表現で蒐集家たちを魅了してきた唐津焼。中里太亀も、毎日のように触れて使いたくなる日常の酒器を生み出し続けている。藁灰釉による柔らかな表情が美しい「斑唐津」や唐津らしい素朴な景色が特徴の「皮鯨」は、口に触れたときの心地良さが絶妙。父である中里隆から受け継いだ焼締作品である「唐津南蛮」の片口も、その水切れの良さが評判であり、お酒好きには必須の作品だ。

澤克典(滋賀県信楽/1980-)

澤克典の酒器は、日本酒の愛好家や蒐集家だけでなく、和食の料理人からの評価も高い。土の素材感が良く、和食器との相性が良いこともその理由の一つであろう。焼成中に引き出し、急冷させることで、自然釉による青緑のビードロを纏う「信楽」の酒器は、一度の焼成で僅かな数ほどしか生まれない希少な作品であり、作家の人気作品の一つとなっている。個性的な絵柄が施された「弥七田織部」も、好みの絵柄を探し出すのが楽しく、多くの人々から愛される酒器である。

山口真人(愛知県瀬戸/1978-)

近年、数多いる陶芸家の中で、独自の個性を放っているのが瀬戸で作陶を行なう山口真人だ。瀬戸の地で「織部」、「黄瀬戸」、「志野」などを手がける。「織部」は、壮大な自然を感じさせる、釉薬の流れが見どころの作品。また、自身で編み出した「琳派織部」は、独創性の高い絵付け表現で、入手困難な作品の一つである。涼しげな釉景を持つ「御深井」の酒器も冷酒に相応しく、お酒の場を盛り上げてくれるであろう。

今泉毅(埼玉県/1978-)

天目や青瓷を手がける作家として、着実に人気を高めてきているのが今泉毅だ。色と姿形の両方の美しさを備え、完成度の高い作品を発表している。夜空を思わせる「窯変天目」は、日本酒を注ぎ込むたびに、長い間眺めていたくなるほどの絶景。もう一つの人気作品である「翠青瓷」は、釉薬が何層にも感じられる深みがあり、特に稜花の形をした作品はすぐに完売してしまうほどの人気ぶりだ。

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KOGEI STANDARD

編集部

KOGEI STANDARDの編集部。作り手、ギャラリスト、キュレーター、産地のコーディネーターなど、日本の現代工芸に関する幅広い情報網を持ち、日々、取材・編集・情報発信を行なっている。