「クラフトマンシップ」
連載コラム『日本工芸の歩む道』後編「現代社会と工芸」 VOL.2
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じわりとした油揚げのような、優しい淡黄色の器肌。「油揚手(あぶらげで)」と呼ばれるそれは、黄瀬戸というやきものでは理想とされる表現だ。素地は薄く、釉も薄掛け、控えめな加飾「胆礬(たんぱん)」の緑は茫と滲み、高台にはよく焼けた証の焦げが見える。西岡悠作《黄瀬戸茶碗》には、均整の取れた美しさがある。
桃山時代に美濃で誕生した黄瀬戸は、素地に灰釉を掛けて酸化焼成することで作られるが、油揚手の質感をうまく引き出すのは至難の業とされる。素地や釉の厚さ、焼成の温度、湿度などに細心の注意を払ってなお、窯の中の限られた場所でしか、この質感を出すことはできない。これらの厳しい条件ゆえか、現代で正統派の黄瀬戸に正面から挑んでいる作家はそう多くはないが、西岡氏はその難関こそが陶芸の面白さであると、この一筋縄ではいかないやきものに魅せられた。黄瀬戸の表現を追求するべく、日夜作陶に励む氏の作品に今、注目が集まっている。