『日本工芸週間2025』開催
注目の展覧会・イベント VOL.75

長年の修練により体得した江戸切子の技術を基本にしながらも、その枠にとらわれず、時に薩摩切子の特徴も取り入れ、ガラスが持つ魅力を最大限に引き出す切子作家、小川郁子。
《額装 菱形》は、山の上に明るい満月が浮かぶ風景を連想させる作品だ。鮮やかな黄色の円形のガラスには伝統紋様の菊つなぎが細やかに刻まれ、深い緑色のアシンメトリーな形状のガラスには、山の稜線を描くように、力強い筋が存在感を見せている。2つの対照的なガラスの絶妙な配置も、作家の鋭敏な感性によるものだろう。菱形の額の中、精巧な銀線細工に支えられ空中に浮かぶガラスは、光を受けて、繊細な陰影を室内に作り出している。
確かな技量があってこそ形になる、自由な発想から生まれる表現。現代的な作風の中に伝統技術がきらめく様に、心動かされる作品だ。