MUFG「KOGEI ARTISTS LEAGUE」開催決定
工芸トピックス VOL.30
展覧会情報やインタビューなど、工芸に関するさまざま情報を発信しています。
禅は南インド生まれの達磨(だるま)が中国で広めた教えが始まりとされる。その後、禅は中国から日本にも渡り、鎌倉時代に普及するが、近代になり、仏教学者の鈴木大拙が英語で禅について発信したことなどから、禅は日本から海外へと広まっていった。
禅には曹洞宗や臨済宗など、様々な宗派があるが、共通するのは「不立文字(ふりゅうもんじ)」というもので、そのほかの宗教と異なり、経典などの文字に頼らず、座禅を通じて、釈迦と同じ悟りをひたすら追体験することを大きな目的としている。この実体験を重視する姿勢が、宗教としてだけでなく、日々の心の在り方の一つとしても着目され、起業家やプロスポーツ選手などから支持を受けている。
日本の禅は、鎌倉時代より日本に普及したものだが、それ以外にも、禅僧が茶道や懐石料理を日本に伝えるなど、宗教の枠を超えて、日本の生活文化に浸透してきた。また、日本には美しい禅の「庭」がある。禅の庭では、水を用いない庭である「枯山水」が有名だが、キリスト教における教会や仏教全般における仏像のように、禅にとっては、この美しい庭が日本の禅の存在を国内外に伝える上で、大きな役割を担ってきたと言える。
禅は、書画や絵画などの日本美術にも影響を及ぼしている。禅僧には絵画や書画に優れた人が多くおり、彼らが描いた作品には国宝や重要無形文化財が数多く存在する。国宝として指定されている水墨画の『瓢鮎図(ひょうねんず)』は、禅について描いたものとして有名であり、禅僧の白隠慧鶴(はくいんえかく)が描いた『達磨図』は、一度見たら忘れることのできないほどの迫力がある。
また、禅の書画の中で重要なものの一つに「円相」というものがある。多くの禅僧が描くものとしても知られており、丸く描かれた円は、始まりもなければ、終わりもなく、すべてが始まりであり、終わりであるとも言え、その境地が禅を代表する書画となっている所以だ。
禅に関連する工芸品と言えば、禅僧が用いる応量器が有名だ。別名は「鉄鉢」とも言い、高台のない形状が特徴である。本来は鉄または土で作られたものが用いられ、木製は厳禁とされていたが、鉄を模して漆がかけられた漆器は良しとされ、今では、一般の暮らしの中でも使われている。
現代において、禅が国際的に注目を浴びるのは、物や情報が溢れ、絶え間なく変化を続ける時代に、そうした日常から離れ、物事の本質を見つめたいと思う人々が増えているからではないかと思う。日本は、以前から美しい四季がありながら、地震や台風などの天災があり、変化の中で本質を望む気質が自然と備わっている。それが禅の在り方と結びつきやすかったのだろう。こうして、日本の暮らしの中で育まれてきた禅は、「日本の禅」として、世界に羽ばたいているのだ。
参考:鈴木大拙『禅とは何か』(角川文庫ソフィア)